瀬戸の伝統産業や個人店など地域のらしさを伝える宿泊施設


愛知県尾張地方の北部に位置する瀬戸市は、古くからやきもの産地として有名だ。日本六古窯のひとつであり、陶磁器全般を表す「せともの」の語源は瀬戸のやきものだといわれるほど、全国にその名を轟かせている。9月に行われる「せともの祭」には毎年数十万人が訪れるなど、まさにやきものを中心に発展してきた街だ。

そんな瀬戸は近年、移住者が増えたことをきっかけに新しいスポットが次々と誕生し、街の様子が大きく変化している。瀬戸の盛り上がりの一端を支える〈Masukichi(ますきち)〉オーナーの南 慎太郎さんと、奥様でライターの未来さんにお話を聞いた。
〈Masukichi〉外観。
〈Masukichi〉外観。
〈Masukichi〉は明治時代に活躍した陶工・川本桝吉の本邸をリノベーションして作られた宿泊施設。部屋は全8部屋で、6部屋の個室と2部屋のドミトリー(個室として利用する場合もある)で構成されている。オーナーの慎太郎さんは瀬戸市出身で、北海道の大学を卒業後しばらくして〈Masukichi〉をオープンした。

「もともと国内でも海外でも地域を見て回るのが好きで、旅人と街をつなぐ役割をもつ宿泊施設に興味を持っていました。そこで地域らしさを紹介しながら旅のカタチを提案できたらと考えたんです。宿泊施設を開くなら、観光地のようにそもそも人が多く来る場所ではなく、伝統産業が盛んでおもしろい個人店がある地域が良いと思い、条件に当てはまったのがたまたま地元の瀬戸だったんです(南 慎太郎さん 以下、慎太郎さん)」
〈Masukichi〉オーナーの南慎太郎さん。
〈Masukichi〉オーナーの南慎太郎さん。
〈Masukichi〉には瀬戸の魅力を伝えるさまざまな仕掛けがある。併設されたカフェでは地元の人気店のドリンクやごちそうを提供し、お土産店では瀬戸焼の作家が手がけた商品などを販売。瀬戸の風景が伝わるお土産を持ち帰ってほしいと、地元のメーカーとコラボして作ったオリジナルグッズまである。特に瀬戸の魅力発信に貢献しているのが、オリジナルの街歩きマップだ。宿泊者に配布し、自由に街のおもしろさを深掘りできるようにしている。慎太郎さんたちがあれこれ説明しておすすめのスポットをアテンドするのではなく、宿泊者が主体的に選べるよう工夫しているのだそう。

「泊まった人が自分にとって心地良い場所を探せるよう、初日に最低限の情報のみ説明して、あとは自由に楽しんでもらっています。僕も情報は欲しいけど、自由に過ごしたいタイプなので、このようなスタイルにしました。

瀬戸はおもしろいスポットがぎゅっと詰まっていて、〈Masukichi〉から徒歩圏内にも見どころがたくさんあります。駅前の商店街と、川沿いの商店街を周って雰囲気の違いを楽しむだけでもおもしろいですよ(慎太郎さん)」
宿泊者はビジネス目的ではなく、観光客がほとんど。海外からの観光客も多いのだとか。ひと月あたり約300人が訪れ、〈Masukichi〉に泊まったことをきっかけに瀬戸へ移住した方が20人もいるという。瀬戸のおもしろさとリアルを伝える〈Masukichi〉は、ローカルへ移住したい人の入口にもなっている。

お店のPRの手助けから本の出版までジャンルを問わず活動


そして〈Masukichi〉を語るうえで欠かせないのが、奥様の未来さんの存在だ。東京で編集者・ライターとして活動したのち地元・瀬戸へ戻ってきた未来さんは、瀬戸の街歩きメディアを運営し、地元の魅力を発信し続けてきた。その発信力を活かし、〈Masukichi〉の広報担当も務める。

「瀬戸はやきものの産地としてわかりやすい構造の街だと思います。この辺り一帯は古くから鉱山地帯なので、多くの窯元さんが生まれ、職人がいたからこそ商店街や神社ができました。やきものの産地として自然に発展していった街なんです。古くからの窯元が残っていて歴史が感じられる一方、ここ7年で駅周辺には喫茶店や本屋、セレクトショップなど新しいお店が40店舗近くオープンして、新旧入り混じった新たな魅力が生まれつつあります(南 未来さん 以下、未来さん)」
右が奥様の未来さん。
右が奥様の未来さん。
慎太郎さんも「瀬戸はわかりやすい観光地ではないが、ここならではのおもしろさがある」と語る。その根底にはやはり“やきもの”の存在があるようだ。

「たとえば瀬戸にはお肉屋さんが多いのですが、じつは窯元の職人がお金がないなかでもおいしくお腹を満たせるようホルモン屋が多くできたことに由来しています。さらに、瀬戸に現代アーティストが増えているのは、やきもの職人の邸宅だった物件がリーズナブルに借りれてアトリエとして使いやすいから。このように地域の独自性を紐解いて、深掘りしていくとおもしろい部分がたくさんあるんですよ(慎太郎さん)」
二人の活動は〈Masukichi〉の運営だけにとどまらない。地域を盛り上げるイベントの開催や女性限定のシェアハウスの運営のほか、未来さんとともに出版社を立ち上げ、瀬戸を紹介する本の出版も行った。すべては瀬戸のおもしろさや良さを多くの人に伝えたいという想いからだ。
 
「ほかにもお店のホームページを作ったり、新商品を作るためにクラウドファンディングに挑戦する窯元さんをサポートしたり、二人でさまざまな活動を行っています。産地としての旅を表す街として瀬戸がもっとおもしろくなるようサポートしたいんです(慎太郎さん)」

街全体の魅力を編集しながらさまざまなカタチで伝えていく


瀬戸の魅力をより伝えるべく、次に計画を進めているのは窯元や鉱山の案内ツアーだ。全国的に陶磁器に使う粘土が採れる鉱山が減っているなか、瀬戸にはまだ多くの鉱山が残っている。そこで、旅行代理店の資格を取得し、原料からやきものの魅力を再認識してもらう産地ならではのツアーを企画し、実行し始めている。

「じつは以前、商店街でやきもののショップを開いた時期があったのですが、訪れる皆さんが『窯元はどこにあるの?』と聞いてくるんです。瀬戸には窯元が多いものの、常時開いていて見学ができたり、せとものを販売したりしている窯元は少なく、産地に来る人のニーズに応えられていない現状がありました(未来さん)」

そんな観光客の需要を捉え、昨年は加仙鉱山を案内し、窯元を巡る特別なツアー企画を実施。参加者の熱量の高さが感じられ、大きな手応えを得たという。今年からは鉱山と粘土の加工所を案内するツアーを常時受け付けにし、瀬戸ならではの新しい旅のカタチを提案していく。成功体験を重ねながら、ゆくゆくは窯元や陶芸道具屋など周る場所を増やし、ニッチなスポットをめぐる旅を計画していく予定だ。
宿泊業に、出版業、旅行代理店やお店のPRの手助けなどさまざまな活動を行う慎太郎さん。これからも業種にこだわらず、あらゆる視点で街を編集し、その魅力を伝え続けていく。

「瀬戸は魅力がたくさんあって、編集しがいのある街。僕が戻ってきたばかりの頃は若い人が少なかったですが、ここ7年ほどで瀬戸の魅力に気づいた方がどんどん移住し、街はさらにおもしろくなっています。そんな街の魅力をあらゆる文脈でつなげて編集して、多くの人に届ける活動をこれからも続けていきたいですね。(慎太郎さん)」

瀬戸は日本では珍しく陶器も磁器も焼かれる産地。その汎用性が瀬戸焼の魅力であり、だからこそ日本全国に広まっていったといえる。ジャンルを問わず活動の幅を広げる南さんご夫妻も、まるで瀬戸焼のような性質をもっているようだ。

さらに国内外問わず多様な人を受け入れる土壌がある〈Masukichi〉は、日本中に浸透し広がっている瀬戸焼とつながる部分があるような気がしてならない。これからも〈Masukichi〉を起点に、瀬戸の魅力はどんどん広がっていくに違いない。

Text & Photo:tabigatari editorial department


いつもと違う愛知県観光には、〈Masukichi〉がおすすめ。

Masukichi -Hostel, Cafe, Souvenir, Guide-


所在地愛知県瀬戸市仲切町22(Google Map
アクセス名鉄「尾張瀬戸駅」から徒歩約7分
URLhttps://seto-masukichi.com/
Instagram@seto_masukichi
営業時間月火水木 15:00〜21:00
金土日祝 13:00〜21:00

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。