伊豆半島の最南端に位置する南伊豆。
都心から出向くには少し距離がありますが、透明度の高い綺麗な海と、ありのままの豊かな自然が広がっています。この地で、単なる宿泊施設という枠を超え、人と地域の新しい関わり方を実践している場所がありました。
南伊豆町のメインストリートである「下賀茂商店街」に面している〈ローカル×ローカル〉は、元雑誌編集者であり、漫画家としても活動するイッテツさんが運営するゲストハウスです。
イッテツさんにとって伊豆は、一度も訪れたことがない場所で、知り合いも全くいなかったそうです。そんな伊豆に行くきっかけとなったのは、知人から「伊豆で一緒に働いてみないか」と誘われたこと。イッテツさんは、ちょうど東京での仕事のサイクルに疑問を感じていて、“誰と、何を一緒にやるか”が大事なのでは?と考え、3年間限定で南伊豆での生活を試すことにしたそうです。
南伊豆でのイッテツさんのミッションは、地域メディアを立ち上げ、関係人口を創出することでした。イッテツさんは地域の人たちの日常にお邪魔する暮らし体験プログラム「
南伊豆くらし図鑑」をつくり、都市と地域の人々が交流する機会をつくっていきます。
イッテツさんはこの取り組みがきっかけで、お店のようなスポットだけでなく、地元の釣り名人や農家の方など、これまで出会わなかった多様な地域住民を紹介することに面白さを見出したそうです。
当初は3年間のミッションを終え、地域の人々に事業を引き継いで東京に戻るという計画だったそうですが、地域に対する愛着が芽生えたことや、地元の複合施設の開発計画が頓挫したことで、イッテツさんは地域との関わりを終わらせず、自らが宿〈ローカル×ローカル〉を立ち上げ、南伊豆の魅力を発信する拠点を作りました。
「計画されていた複合施設という“ハード”がなくなった状態で、地域で生み出してきた“ソフト”の部分だけを残して東京に戻ることを、なんだか『かっこ悪い』と感じたんです」とイッテツさん。
今も行っている体験プログラムというのは、宿泊者であるお客さまを“お客さまにさせない”一組限定のプログラム。例えば、地元のカフェの店主と野草茶を作る体験をしたり、森の中でパン屋さんを営む主人と一緒に薪割りを手伝ったりするそうです。
イッテツさんにとってのローカルとは?と聞くと、単なる「地方」という意味ではなく、「人ひとりの単位」を究極のローカルと捉えているとのこと。そんな小さな単位(=“私”)から始まる掛け合わせ、その一対一の繋がりこそが面白いのではないかと。
現在、特に力を入れているのが「創作活動プログラム」だそうです。4泊5日の滞在で、漫画の制作や、あるいはプレゼン資料の完成など、宿のフロントに目標を掲示して進捗を宣言させる、というユニークな取り組み。イッテツさん自身は創作活動の中身にはコミットしないものの、時間管理などのファシリテーションや、自らも創作活動を行うことで参加者をサポートしているのだとか。
「創作に集中できる空間として、南伊豆は最適なこもる場所だと思います」というイッテツさん。宿という場を使って、誰かの表現が生まれる瞬間をサポートする、という面白い試みです。
一人の人間として呼吸ができる、静かな時間のある南伊豆。「都心から遠いからこそ、守られている面があるのではないか」とイッテツさんは言いました。距離感があるからこそ、個々人が持つ独自性が尊重され、その独自性を保っていられるのが、南伊豆の魅力かもしれないと。
Text:tabigatari editorial department
Photo:Misa Nakagakiいつもと違う静岡県観光には、〈ローカル×ローカル
〉がおすすめ。
ローカル×ローカル
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