花街として賑わった、昭和の世界へタイムスリップ


“せともの”のまち・愛知県瀬戸市。この街で1958年から続く、老舗酒場〈とんやき 丸幸〉。こちらでは、全国に10軒ほどしか残っていないという、昭和に作られたサーバー「円筒氷冷スイングカラン」で生ビールを提供するお店で、ビールをこよなく愛する人たちが、極上の一杯を求めてやってきます。
昭和初期の頃、花街として賑わった、瀬戸市の新開地エリア。ここに、時が止まったような酒場〈とんやき 丸幸〉が、ひっそりと佇んでいます。

創業は昭和33(1958)年。時代とともに、周辺にあった遊郭がなくなっていくなかで、はじまりました。元々は遊郭だった建物が使われており、裏口には遊郭と結びつきが深いひょうたんの装飾が施されています。
「酒」の文字が大きく書かれた暖簾をくぐると、10名ほどが座れるカウンター席と4席のテーブル席。壁には、創業当時から変わらないスタメンメニューの味わい深い看板が目に飛び込んできます。

ビールは、生ジョッキだけではなく、特大ジョッキ(1L)まであり、心ゆくまでグビグビ飲めそうです!
さて、まずは一杯!
特大!と言いたいところですが、今回は生中を注文。すると、三代目・加藤大典さんがあっという間に注ぎ、泡をあふれさせながら、「おつかれ生」の声とともに、運んできてくださいました。

飲んでみると、泡がとにかくクリーミー。まるで生クリームのようなきめ細かさ。するすると喉を通っていくので、水のごとく飲んでしまいます……!

 

全国でも希少なスイングカランで生ビールを


丸幸では、昭和初期頃まで多くのビアホールで採用されていた「スイングカラン」というビールサーバーが使われています。

復刻版は出ているものの、オリジナルは全国でも10軒ほどしか所有していないという、貴重なもの。元々そのことはビール業界の関係者のなかでは有名だったようですが、大典さんがSNSをはじめてから、一般の人にも知れ渡り、熱心なビール好きがこぞって集まっています。

「スイングカラン」は注ぎ口が1つで、ハンドルを左右に動かすことで液体が出て、真ん中に合わせると、泡が出てくる。カメラの操作で言えば、オートではなくマニュアルのようなサーバーです。

そのため調整が非常に難しく、“注ぎ手”によって味が左右され、そこが人気のひみつでもあります。
注ぎ方は、有名な“注ぎ手”などによって確立された文化があります。東京の大きなビアホールでは速さを求められるので、一気に注ぐ一度注ぎ。切れ味を重視し、炭酸は多め。関西では、泡を残して、酸化を防ぐためにふっくらと蓋をする二度注ぎだといいます。

では、「丸幸」はというと、そのどちらでもなく、グラスに液体が半分入ったぐらいから、とぐろを巻かせて、細かい泡を上に乗せる。創業から変わらないやり方です。

「理想のビールの味は、しっかりと泡が甘いもの。旨味が感じられるような。それから、炭酸の抜き加減もこだわっていて、ほどよく炭酸を抜く。うちのは、飲んでも飲んでもゲップが出ません(笑)。今の普通のサーバーだと流量が少ないから、管も細い。普通は5ミリなんだけど、僕らは9ミリだから、ガス圧を上げなくても、押し出してくる。勢いが良くて、じゃじゃ馬みたいなもんです(笑)」

注ぐ様子を見せていただくと、スプーンでいらない泡は取り除き、おいしい泡だけを残しています。

「よその注ぎ方も色々と見たけど、やっぱりこれかな、って。色々な注ぎ方を習得しようかなと思ってやってみたけど、お客さんはそれを求めている訳じゃない。注ぎ分けしている店はあるから、そこはそこのスタイルかな。ここのスタンダードをずっと変わらず続けています」
特別に、円筒形の冷却器の中を見せていただくと、氷で冷やしているというから、また驚かされます。

「このサーバーがほとんど絶滅したのも、氷でサーバーをずっと冷やしてないといけないからなんです。ここの温度が上がってくると、ビールが綺麗に出てこなくなってくるから、調整しながら。なおかつ、生樽も冷たくないといけないから、冷蔵庫の中に入っています」

コスパではなく、あくなきおいしさの追求。その結果、創業以来ずっと「スイングカラン」を使い続けているそうです。

 

名物はとんやき


丸幸を訪れたら、ぜひいただきたい名物は「とんやき」。豚ホルモンに甘辛のタレをたっぷりつけた串焼きです。

やきものの産地である瀬戸では、体力仕事の職人たちを支えるスタミナ食として、ホルモン文化が深く根付いているそうです。
ホルモンは、何度もしっかりと洗われているので臭みがなく、しっかり甘め。

ほかにも、身のボリュームがしっかりとしたねぎまと、牛骨入りのつくねも、生ビールに最高に合います。
こちらは、湯豆腐。「丸幸」のことを豆腐屋、と呼ぶお客さんもいるほど、定番人気です。

瀬戸市内の柴田豆腐店のもので、豆腐の味が濃い。シンプルに昆布出汁で温められ、ネギとしょうが、たっぷりとかかった醤油でいただきます。そして、年中おでんもいただけます。東海エリアでおなじみの赤棒や、意表をつくジャガバタなどをお好みで。

少数精鋭のつまみとともに、ビールが止まりません!
「丸幸」は平日しか開いていないので、地元のお客さんが多め。常連さんたちは気さくで、若い飲兵衛も多く、声をかけていただいたりして、とっても楽しいひとときに。

日常的に通いたくなる、最高の酒場でした。


Text & Photo:Miku Minami


いつもと違う愛知県観光には、瀬戸市の〈とんやき 丸幸〉がおすすめ。

とんやき 丸幸(まるこう)


所在地愛知県瀬戸市陶原町5-38(Google Map)
アクセス名鉄瀬戸線「瀬戸市役所前駅」から徒歩約7分
電話番号0561-82-5575
Instagram@tonyakimarukou
営業時間17:00〜21:00
休業日土日祝

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。