熱海の風土を閉じ込めたクラフトジンをつくる〈SEACLIFF 熱海蒸溜所〉を訪ねる。

クラフトジン蒸溜所を巡る旅【SEACLIFF 熱海蒸溜所編】

2024年、熱海市指定有形文化財・起雲閣の近くに、〈SEACLIFF(シークリフ) 熱海蒸溜所〉 がオープンした。店内の中央には黄金に輝くドイツ製の蒸留器が鎮座しており、その堂々たる姿を眺めながら熱海の素材を使ったクラフトジンを楽しむことができる。熱海の新たな観光スポットとしても注目を浴びる〈SEACLIFF 熱海蒸溜所〉。代表を務める釜谷道夫さんに設立の経緯やクラフトジンづくりのこだわりを伺った。

素材の豊かさに惹かれ、熱海初の蒸溜所立ち上げに奮闘


〈SEACLIFF 熱海蒸溜所〉があるのは、ここ数年で新しいスポットが誕生し、賑わいが増している起雲閣通り。熱海の“三大別荘”として知られる起雲閣の目の前に位置し、観光ルートにも組み込みやすいスポットとなっている。〈SEACLIFF 熱海蒸溜所〉の建物は、落ち着いた雰囲気の起雲閣通りに似合うシンプルで洗練されたつくり。ガラス張りの入口から中に入ると、ドイツで4世代に渡って続くアーノルド・ホルスタイン社製の蒸留器が迫力満点で出迎えてくれた。熟練の職人が手がけた蒸留器は惚れ惚れするような美しさで、圧倒的な存在感を放っている。
代表を務める釜谷さんは、銀座や青山の一流バーなどで20年以上バーテンダーとして活躍してきた経歴を持つ方。2004年には独立して西麻布にバーを立ち上げた。

「バーテンダーとして蒸溜所やワイナリー、酒蔵などを巡るうちに、自分でプロダクトをつくって世に出すことに憧れを持つようになりました。たとえばワイナリーの中には、そこでつくったこだわりのワインをぶどう畑の見える場所で飲むといった特別な体験を味わえる場所もあります。自分もそういったプロダクトや空間づくりに挑戦してみたいと思うようになったんです」
〈SEACLIFF 熱海蒸溜所〉代表の釜谷道夫さん。
〈SEACLIFF 熱海蒸溜所〉代表の釜谷道夫さん。
そんな想いを抱く中で出会ったのが、数々のレストランやカフェなどを運営するタイソンズアンドカンパニーの代表・寺田心平さんだ。寺田さんは東京でいち早くクラフトビール醸造所を手がけた先駆者的存在。東京・天王洲の「T.Y.HARBOR Brewery」は、自社ブルワリーでつくったクラフトビールをレストランで楽しめる場所で、まさに釜谷さんが理想とする空間だった。

以前から親交のあった寺田さんとのご縁で、タイソンズアンドカンパニーに入社し、バーディレクターとして各店舗のドリンク開発などに携わってきた釜谷さん。そして、熱海の老舗「ホテルニューアカオ」の再生プロジェクトを機に、熱海への関心がぐっと高まることとなる。

「寺田さんからも『熱海が面白そう』という話は聞いていました。自分でも熱海を調べてみてまず感じたのは、広大な自然が育む素材の豊かさです。特に熱海の名産である橙(だいだい)は、ジンの核となるジュニパーベリーとも相性が抜群で、素材としてぜひ使ってみたいと思いました。あと、熱海市には意外なことに酒蔵がなかったので、この地に蒸溜所を立ち上げるのも面白いかなと思ったことも理由のひとつです」
熱海や伊豆の特産である橙などの柑橘。
熱海や伊豆の特産である橙などの柑橘。
景観の美しい起雲閣通りに惹かれ、不動産屋に運よく紹介してもらったのがこちらの物件。120年続く畳屋で、ちょうどお店をたたむタイミングだったという。

「畳屋のご主人がお酒好きだったので、とんとん拍子で話が進みました。隣の物件もお借りし、外観の趣を活かしつつ内部をリノベーションしました。蒸留器はアーノルド・ホルスタイン社のものを使用したいと思っていたので、建物の高さがジャストサイズだったことも決め手となりましたね」

海の尊さを伝える〈SEACLIFF 熱海蒸溜所〉のクラフトジン


2024年6月に蒸溜所をオープンし、同年10月にはオリジナルクラフトジンの第1弾をリリース。この「STANDARD CRAFT GIN」には橙以外に、海藻のハバノリや熱海産のレモンなど、熱海や伊豆の素材がふんだんに使われている。そして下田の白浜神社に自生するビャクシンも〈SEACLIFF 熱海蒸溜所〉のクラフトジンづくりに欠かせない存在。ビャクシンは、ジュニパーベリーと同じヒノキ科の針葉樹であり、どちらの素材も使用することでさらに奥行きのある味わいを表現できる。
右上がジュニパーベリー、右下がビャクシン、左にあるのがハバノリ。
右上がジュニパーベリー、右下がビャクシン、左にあるのがハバノリ。
「『STANDARD CRAFT GIN』は、異なるテーマを持つ6種のスピリッツをブレンドしてつくっています。このうち、“コアジン”と呼んでいる味わいの核となるスピリッツは、僕が大好きなロンドンドライジンを目指しました。コアジンの蒸留後は、熱海の柑橘のみずみずしさを閉じ込めたスピリッツや、海藻のうま味を引き出したスピリッツなど、香りやストーリーの異なるスピリッツを製造。6種をブレンドする過程が何より大変でしたが、世界でも注目される新宿のバー『Bar BenFiddich』のオーナー・鹿山博康さんの力もお借りし、何とか形になりました」

「STANDARD CRAFT GIN」の味わいが評価され、2026年6月には米国最大級の酒類コンペティション「San Francisco World Spirits Competition 2026」で、最高金賞となる「Double Gold Medal」を受賞。審査員全員が満場一致で最高評価を与えた銘柄にのみ贈られる、大変名誉のある賞だ。
こだわりのパッケージは、エンボス加工の和紙で熱海の海岸線と蒸溜所を表現。シンプルながらも存在感がある。
こだわりのパッケージは、エンボス加工の和紙で熱海の海岸線と蒸溜所を表現。シンプルながらも存在感がある。
2025年11月からは、“熱海の季節の香りを移す”をコンセプトに蒸留した「SEASONAL EDITION」を次々とリリース。実が青い時期の橙を使った「AODAIDAI(青橙)」や、観光名所でもある熱海梅園の梅をキー素材とする「BAIEN(梅園)」など、4種類のクラフトジンを通年で販売している。

これらの商品は〈SEACLIFF 熱海蒸溜所〉のECサイト以外に、蒸溜所内でも日中の時間帯(11:00〜16:00)に購入が可能だ。コアジン『ATAMI DRY GIN』は、蒸溜所限定で購入できる。
さらに〈SEACLIFF 熱海蒸溜所〉は立ち上げ当初から「1% for the Planet」に加盟しており、売り上げの1%を環境保護団体に寄付する活動を続けている。熱海の恵みでクラフトジンをつくり、その利益を海に還す。〈SEACLIFF 熱海蒸溜所〉は美しい海を未来へつなげるための循環の一手を担っている。〈SEACLIFF 熱海蒸溜所〉のクラフトジンを購入することで、私たちも海を守るための活動に間接的に貢献できるというわけだ。

 

併設のバーでオリジナルカクテルを楽しむ

蒸溜所内には、夕方からオープンする「BAR SEACLIFF」が併設されており、〈SEACLIFF 熱海蒸溜所〉のクラフトジンを使ったオリジナルカクテルを楽しむことができる。オープン前の時間帯だったが、今回は特別にバーで提供しているカクテルを提供していただいた。「初めて飲む方には、まずはシンプルなソーダ割りがおすすめですね。それぞれのクラフトジンが個性のある風味なので、じっくりとボタニカルの魅力を感じてみてほしいです」

そう言って提供いただいたのは、「STANDARD CRAFT GIN」を使ったソーダ割りに、伊豆産のドライレモンを添えた一杯。一口飲んでみると、ロンドンドライジンらしいベーシックな味わいが舌に広がった後、少し遅れてさまざまなボタニカルの風味が流れ込んできた。立体感がありつつ、調和のとれた味わいは、釜谷さんがこだわり抜いた絶妙なブレンドの賜物なのだろう。
「STANDARD CRAFT GIN」のソーダ割り。
「STANDARD CRAFT GIN」のソーダ割り。
「BAR SEACLIFF」には季節限定のカクテルメニューもあり、その季節ならではのおいしさも堪能できる。この日は、今年9月末に登場したばかりの「VALENCIA ORANGE」を使ったカクテルも販売されていた。熱海の契約農家から仕入れたバレンシアオレンジを主役にした「SEASONAL EDITION」の第4弾で、完熟したバレンシアオレンジの芳醇な香りが魅力。いくつかのカクテルを頼んで、飲み比べを楽しんでみるのもおすすめだ。

 

熱海の魅力は海を渡り、さらに広がっていく


2024年にオープンして以来、〈SEACLIFF 熱海蒸溜所〉には、地元の方から観光客までさまざまな方が訪れる。蒸溜所を旅の目的地として訪れる観光客も多く、東京から足を運ぶ方もいるのだとか。

「熱海には銀座商店街などのメジャーな観光スポットがたくさんある中で、ここを目指してきてくださるのは本当にありがたいですね。特に夜の時間帯、この周辺は他の観光スポットに比べると静かな雰囲気になります。ところどころに明かりが灯って、和の雰囲気が漂うところが個人的に好きです。蒸溜所の明かりにつられて、立ち寄ってくださる地元の方も多いんですよ」
蒸溜所立ち上げから2年が経ち、今年は念願だった海外進出も決定。まずは台湾への輸出を皮切りに、今後はヨーロッパへの展開も目指す。

「自分が手がけたプロダクトが海を越えて海外に渡るなんてロマンがあって憧れていたんです。誰かがお酒を楽しむシーンの真ん中に、自分がつくったプロダクトがあると考えるとやはりうれしいですし、やりがいを感じますね。蒸溜所を訪れた方には、ジンを味わうだけでなく、熱海で過ごす時間そのものも楽しんでいただきたいです。そして、この地でつくるクラフトジンの可能性をさらに探っていきたいですね」
歴史と文化が息づく起雲閣通りにひっそりと佇む〈SEACLIFF 熱海蒸溜所〉。観光地として賑わう熱海のイメージとはまた違った顔をのぞかせるこちらの蒸溜所では、クラフトジンを通して熱海の魅力や釜谷さんの情熱を存分に感じることができた。何より美しい蒸留器を眺めながらの一杯は格別で、この瞬間を味わうために何度でも足を運びたくなる。〈SEACLIFF 熱海蒸溜所〉は、熱海の面白さは無限大なのだと、そんな可能性を感じさせてくれる蒸溜所だった。



Text:Ayumi Otaki
Photo:Misa Nakagaki



いつもと違う静岡県観光には、熱海市の〈SEACLIFF 熱海蒸溜所〉がおすすめ。


SEACLIFF 熱海蒸溜所


所在地静岡県熱海市清水町9-13 
アクセスJR熱海駅から伊豆箱根バスで約10分、「起雲閣前」下車すぐ
電話番号0557-48-6950
URLhttps://shop.seacliff.jp/
Instagram@seacliff_spirits
営業時間Bottle Shop:11:00〜16:00
Bar:18:00〜23:00(L.O. 22:30)
休業日月曜、火曜

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