根底にあるのは本に恩返しをしたいという想い


愛知県豊橋市には、農業用水路に蓋をするように立てられた不思議なビル群「水上ビル」がある。「豊橋ビル」「大豊ビル」「大手ビル」の3つのビルで構成されており、長さはなんと800mにも及ぶのだとか。戦後の闇市を起源とし、のちに市民が愛するアーケード商店街へと発展した水上ビルは、今やそのレトロな雰囲気が人気を博し、若者が訪れる観光スポットとなっている。今回訪れるのは、そんな水上ビルの中央に位置する独立書店〈ネコゼ商店〉。
〈ネコゼ商店〉店主の中上由有希(なかがみ・ゆうき)さんは三重県出身で、結婚を機にご主人の地元である東三河に越してきたという。まずはWEB販売から始め、水上ビルのマーケット出店を機に移動販売を実施し、2025年2月に実店舗をオープンした。

「昔から何かお店をやりたいと漠然と思っていました。最終的に本屋を選んだのは、本に救われた経験があったからです。社会人になって本を読む機会が少なくなっていたのですが、悩んでいたときに、手に取った本に背中を押されて、一歩進むことができました。ここ数年、本屋さんが減りつつある現状を知り、大好きな本に出会える場所をなくしたくないと思ったのも理由のひとつです」
〈ネコゼ商店〉店主の中上由有希さん。
〈ネコゼ商店〉店主の中上由有希さん。
現在の場所に実店舗を開くきっかけは、水上ビルに店を構える美容室オーナーからの紹介。水上ビルは住居兼店舗で設計されており、店舗部分となる1階のみが貸し出されるケースが多いという。元が菓子問屋だったこちらの物件は丸ごと借りることができ、1階を書店、2階と3階をイベントスペースとして活用しているのだとか。
使い込まれた味のある内装を活かしながら、棚など最低限のリノベーションを施し、お店をオープン。
使い込まれた味のある内装を活かしながら、棚など最低限のリノベーションを施し、お店をオープン。
「水上ビルのイベント“雨の日商店街”へ遊びに行ったときから、『いつかこんな素敵なところでお店ができたらいいな』と思っていたんです。豊橋は新幹線の停車駅だからこそ、水上ビルをはじめとした駅前がにぎわっているし、車で少し行ったら海も山もあってちょうどよい規模の街というイメージ。とても過ごしやすくて気に入っています」

 

夫婦の“好き”をカタチにした、充実のラインアップ

お店はご主人とともに運営をしており、選書も二人で行っている。店名の由来は、夫婦ともに“猫背”だったからだそう。「猫背の二人が背すじを伸ばしておすすめする本と雑貨」をコンセプトに、多彩なジャンルの本とこだわりの雑貨を揃える。「私と夫では趣味が違うので、結果的にジャンルが増えました。夫が選ぶのは科学や小説、短歌などの本です。私はアートや写真集、エッセイ、料理本などをよく選びます。前に、DIY用品や生活雑貨などの専門店で働いた経験があったことから、当時のつながりを活かした雑貨の取り扱いも。自分たちの“好き”を真っ直ぐにカタチにするなかで、お客さまが〈ネコゼ商店〉に共感し、足を運んでくださることが、ただただありがたいです」お店には30〜40代を中心に、老若男女問わずさまざまな方が訪れる。地元住民も多く、駅の反対側から水上ビルを散策しにきて、その流れで〈ネコゼ商店〉に立ち寄る方もいるそう。
レジ近くには地元の作家などが手がけるZINEのコーナーが。
レジ近くには地元の作家などが手がけるZINEのコーナーが。
旅好きだという中上さんが、今回、旅に出る前に読みたい本としておすすめしてくれたのは、『O KU|内藤礼 地上はどんなところだったか』。現代美術家・内藤礼さんが映像作品の制作のために訪れた、沖縄の村落「奥(おく)」を旅した記録をまとめた本だ。
「一章の『旅のまえに』のパートで綴られている、『まぶたをひらき、おろしたての目で見た景色はどんなふうだったのだろう。』という文章がとても素敵で。旅に行く前に読む本は、自分の気持ちを盛り上げてくれるプロローグのような役割を担うと思っているのですが、まさにこの一文は旅に向けた気持ちをリセットしてくれるような存在。読むと、まっさらな気持ちで旅を楽しみたいという気持ちになれるんです。

内藤さんは作品制作でいつも、『地上に存在することは、それ自体祝福であるのか』というテーマを掲げており、この世に生きていること自体が喜びではないかと問いかけています。その素晴らしさを、私も旅を通して感じてみたいと思わせてくれる本です」「『豊橋に来たら、とりあえず〈ネコゼ商店〉に寄って行こうかな』と思ってもらえるようなお店でありたい」と最後に話してくれた中上さん。読書会や、じっくり本と向き合える読書室など、本を起点としたコミュニケーションの場も積極的に作っている。

〈ネコゼ商店〉は2026年2月28日で1周年を迎えた。これからも中上さんの本への恩返しは続いていく。




Text:Ayumi Otaki
Photo:Misa Nakagaki




いつもと違う愛知県観光には、豊橋市の〈ネコゼ商店〉がおすすめ。

ネコゼ商店


所在地愛知県豊橋市駅前大通3丁目118 大豊ビルA1
アクセスJR「豊橋駅」から徒歩約10分
豊鉄市内線「新川駅」から徒歩約2分
Instagram@nekoze_shouten
営業時間平日 16:00〜20:30
土日祝 11:00〜20:30
※朝市開催日は10:00〜19:00
休業日水曜、第2・4火曜

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。