“子どもたちに多様性を伝える”をコンセプトにした書店


閑静な住宅街が広がり、落ち着いた雰囲気が魅力の名古屋市・星ヶ丘エリア。千種区から名東区にまたがり、教育施設が充実する文教地区としても知られている地域だ。そんな星ヶ丘エリアに、一周300歩ほどで周れる小さな商店街がある。西山商店街は1960年代に誕生し、古くからこの地に根付いてきた歴史ある商店街。時代の流れによって一度は衰退したものの、空き店舗を再利用するプロジェクトによって賑わいが戻りつつある。

今回、訪れるのは西山商店街の空き店舗を利用し、2021年10月にオープンした独立系書店兼カフェ〈Reading Mug〉。星ヶ丘駅から徒歩で15分ほど歩くと、水色の外壁がかわいらしいおしゃれな店舗が見えてきた。
「オープンのきっかけは、名古屋市主催の商店街活性化事業のワークショップに参加したこと」と話すのは、店主のキムラナオミさん。30年以上グラフィックデザイナーとして活躍し、本の装丁の仕事などにも関わってきたキムラさんは、イギリスで出会った書店から感銘を受け、書店オープンの夢を描くようになる。

「イギリスの書店はどれも、交流の場を大切にしている雰囲気があります。現地の作家さんの出版記念パーティや子どもたちの読書会などを開催し、自然と人が集まる場所になっているんです。どんどん書店が減少している日本とは、書店の在り方が違うと感じました。古い建物を活かしたり、カフェが併設されていたりと雰囲気も良く、いつか自分もこんな場所を作りたいと思いましたね」
〈Reading Mug〉店主のキムラナオミさん
〈Reading Mug〉店主のキムラナオミさん
もともと本が好きだったというキムラさん。書店オープン以前も、ブックマーケットや古本市などのイベントに出店し、2018年にはオンライン書店のサービスも開始していた。活動を続ける中で本の在庫を置く場所がほしいと、アトリエ兼書店を探す過程で出会ったのが西山商店街の物件だ。
「西山商店街の空き店舗を利用するためのワークショップ『ナゴヤ商店街オープン』が開催されており、最初は軽い気持ちで参加しました。ワークショップに参加するうちに、商店街の環境の良さや雰囲気の素晴らしさに気づき、この場所で書店を始めてみたいと思うようになったんです。この辺りは移住者も多く、海外に駐在経験があるご家族や遠方から転勤してきた方、外国人ファミリーなど、さまざまな方が暮らしています。『子どもたちに多様性を伝える本屋』を開きたいと思っていたので、コンセプトにもマッチすると思いました」
地域のコミュニティセンターだった場所を改装し、明るく居心地の良いスペースに。
地域のコミュニティセンターだった場所を改装し、明るく居心地の良いスペースに。

イギリスの書店で体験したコミュニティスペースの実現へ


〈Reading Mug〉では、赤ちゃんから大学生までの子どもたちに多様な価値観を伝える書店として、世界の文化や暮らし、LGBTや人種に関する書籍など、さまざまな生き方について考えるきっかけとなる本を中心に選書を行っている。洋書も豊富で、多くはキムラさんが直接イギリスで買い付けたものなのだとか。和書と洋書が分け隔てなく並べられているのも〈Reading Mug〉の特徴だ。
グラフィックデザイナーとして活躍するキムラさんらしい、装丁の美しい本も数多くあり、眺めているだけで楽しい気分になる。
 
ライター・フォトグラファーとして活躍する夫とリトルプレス本を作った経験から、ZINEなどの取り扱いも。
ライター・フォトグラファーとして活躍する夫とリトルプレス本を作った経験から、ZINEなどの取り扱いも。
店舗の広さを活かしたイベントやワークショップにも力を入れる。本を販売するだけでなく、“何かにチャレンジする人”を応援するスペースでありたいという思いからだ。イベントやワークショップを通じて、人とのつながりや新しいアイデアが生まれる場づくりを意識し、月1回の読書会や英語の勉強会、外部講師を招いてのお話会など、さまざまなイベントを開催中。

さらに、今後はシェア本棚のサービスを始める予定だそうで、イギリスで出会った交流の生まれる書店の実現に奮闘している。
今回、旅に出る前におすすめしてくれた本も、そんなイギリスに関係の深い本。「チャペック旅行記コレクション1 イギリスだより」は、チェコ出身の作家であるカレル・チャペック氏がイギリスを訪れた際の旅行記だ。

「私が実際にイギリスへ訪れた後に読んだ本です。80〜90年前に書かれた本なのに、私が抱いた感覚と重なる部分が多くて驚きました。街の印象や、大英博物館などの観光スポットに対する感想がほぼ同じで、共感するとともに、まるで答え合わせをしているような気分になりました。それほどイギリスの街は良い意味で変化をしていないのかもしれませんね。イギリスへ行く前に読んでもおもしろい本だと思います。
彼の率直な感想を交えたユーモアあふれる語り口も魅力。現地の人たちが大切にしている空気感や価値観を直感的に感じて楽しむ、そういった旅の良さを実感させてくれる本です」店名の「Reading Mug」とは、欧米などで本を読む際に、読書のお供になる大きなマグカップのこと。実際にイギリスの書店で紅茶のサービスを受けたことから、3年前からカフェの営業を本格化している。

「大好きな読書の傍らにいつも〈Reading Mug〉があるような、心地よい存在の書店になれたらうれしいです」とキムラさん。場づくりを大切にした〈Reading Mug〉なら、本とじっくり向き合え、お気に入りの一冊を見つけられそうだ。



Text:Ayumi Otaki
Photo:Akihiro Morita




いつもと違う愛知県観光には、名古屋市の〈Reading Mug〉がおすすめ。

Reading Mug


所在地愛知県名古屋市名東区西山本通2-31
アクセス名古屋市営地下鉄「星ヶ丘駅」より徒歩約15分、または市営バスで7分
URLhttps://readingmug.stores.jp/
Instagram@reading_mug
営業時間11:00〜18:00
休業日火曜、水曜

※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。