旅に出る前に知りたい風土〜土を知る旅〜
同じ場所でも、何も知らずに訪れるのと、事前に知識をつけてから向かうのとでは、まったく印象が変わることがある。「知っておく」ことは、初めて見るはずの景色を立体的にするからだ。事前知識があることで風景が輝き、その土地を歩くことの感慨が増す。そんな、一歩踏み込んだ、味わい深い旅。
山の土が、料理と出会うまで。
美濃焼は岐阜県の東濃地方で作られる焼き物であり、国内で生産される陶磁器製の食器の約半数を占めるともいわれている。ひとつの形や技法にとどまらない懐の広さがあり、時代の変化や人々の暮らし、好みに応じて、その姿を柔軟に変えてきた。美術性の高い器から日常に溶け込む身近な食器まで、幅広く作られていることも美濃焼の特徴のひとつ。多くの人が、これまでの食事のなかで一度は美濃焼に触れたことがあるだろう。
前編では、多治見を拠点に活動する陶作家・安藤雅信さんとともに、美濃焼の原料となる土が採掘される鉱山を訪ねた。そこに堆積するのは、およそ1500万年前の土。切り開かれた地層を前にすると、美濃というエリアが積み重ねてきた時間の長さに気付かされた。その土から作られる美濃焼も、実はそういった時間の流れを内に秘めているのだ。
山の土を、作り手のための土へ
山の採掘現場では、掘り出した原料をトロッコで運んでいた。山からの運搬には牛車が使われ、荷を積んだ車を牛が重そうに引きながら、家の前の坂道を行き来していたという。
そんな時代背景のなかで、岩島さんは土屋としての独自の在り方を築き始めていくことになる。きっかけは、とある美濃焼の作家から「面白い土を探している」という相談を受けたこと。作家は、陶芸用の粘土として調合・製品化される前の天然の土を見たがっていたのだ。
現在、工場では日置哲也さんが土の製造の指揮を執る。
「産業を支える原料にもなり、作家の自由な表現にも応える。美濃エリアには多様な土があるから人が集まり、技術や文化が育ってきたのだと実感しています」
ただし、その土は、人間がつくり出せるものではない。長い時間をかけて堆積した資源を、私たちは掘り出しているのである。「土の可能性を探ることと、無駄にしないこと。その両方が、これからの美濃焼には求められている」と、日置さんは話す。
美濃焼が、料理と出会うとき
美濃・多治見本町には、「土」をコンセプトとした複合施設「THE GROUND MINO」がある。星住克さん・千紗子さん夫妻が営む〈POSTO〉は、この施設内で陶芸の工房やギャラリー、ショップとともに並ぶパスタ料理店。星住夫妻はもともと多治見市内でレストラン「hoshizumi」を営んでいたが、「THE GROUND MINO」内で新たに店を始めたことを契機に、美濃焼と、その作家に強く惹かれるようになった。
料理において克さんが大切にしているのは、野菜本来の味わいを際立たせること。一つのサラダにする場合でも、食材ごとに生のまま出す、焼く、マリネするなど調理法を変えながら、素材の個性を活かす方法を追求する。それと同時に克さんが楽しんでいるのが、できあがった料理や、その日の気分、空気に合う器を選ぶことだ。
「盛りつけて初めて、思いがけない相性に気づくこともあります」と、克さん。サラダの後にテーブルに運ばれてきた焼き桃と新生姜のパスタを見たときに、その言葉の意味がわかった気がした。まるで、最初からその料理と合わせるために作られたかのような色と風合いの器に盛り付けられていたからだ。
美濃焼への興味が高じて、克さんは地域の陶作家である安藤雅信さんに、料理に合わせて厚みや形を変えた器を特別に依頼したこともある。
「器としては少し重くなってもいいから、温かさや冷たさが長く続く器を作っていただけませんか、とお願いしました」
と、克さんは話す。一般的に、飲食店では欠けてしまった器はテーブルには並べない。手を切る危険性があるし、見た目も損なわれるからだ。しかし、安藤さん曰く「器は新品の状態だけが完成ではない。料理が盛られ、人の手に触れ、店で時間を重ねていくもの」。欠けた部分もまた、その器が積み重ねた時間の一部となっていくのだ。だから、危険のないように縁を整えたうえで、使い続けることもある。
「器に興味を示したお客様には、喜んで作家や器の話をお伝えします。一方、食事や会話を楽しんでいる方には、あえて説明を差し込んだりはしません」
と、主にサービスを担当している千紗子さんは話す。それが美濃焼であると認識されていなくても、人々が食事を楽しむ時間の中に自然と溶け込んでいること。その佇まいもまた、美濃焼の魅力の一つだからだ。
山の土を見立てる人がいて、作り手のための陶土へ仕立てる人がいる。そして、作家が器に形づくり、料理人が季節の味を盛り、食べ手の手へ渡す。自然の土と真摯に向き合う岩島さん、日置さん、美濃で器を作り続ける安藤さん、そして、その器に料理を盛る克さんがいて、テーブルへと届けていく千紗子さん。それぞれの言葉を振り返ってみると、美濃エリアに根付く土と器の物語が浮かび上がってくる。あらためて美濃を歩くと、地球が重ねてきた長い時間と、いま目の前を流れる私たちの日常との接点が、少しだけ見えたような気がした。
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Text:Ayano Yoshida
Photo:Yuki Arimitsu
いつもと違う岐阜県観光には、美濃地方の「土を知る旅」がおすすめ。
カネ利陶料
| 所在地 | 岐阜県瑞浪市稲津町小里1161-1 |
| アクセス | JR瑞浪駅から東鉄バス「小里」停留所下車すぐ |
| URL | https://kaneritouryou.com/ |
| @kaneri_touryo | |
| 営業時間 | 工場併設『土のShop』は予約時のみオープン(平日の10時または14時) |
| 休業日 | 土曜・日曜・祝日 |
POSTO
| 所在地 | 岐阜県多治見市本町6-2 THE GROUND MINO |
| アクセス | JR多治見駅から徒歩約15分 |
| 電話番号 | 0572-22-5025 |
| URL | https://posto-mino.com/ |
| @posto_mino_ | |
| 営業時間 | LUNCH:金曜、土曜、日曜、月曜 11:00〜15:00(入店13:30まで) DINNER:金曜、土曜、日曜 18:00〜21:00 おまかせコース ※ご予約は前日10:00まで |
※記事中の商品・サービスに関する情報などは、記事掲載当時のものになります。詳しくは店舗・施設までお問い合わせください。