老若男女問わず多くの人に愛される街の本屋さん


静岡県西部にある掛川市は、昭和54年に全国でいち早く生涯学習都市宣言を行い、今も生涯学習による街づくりを推進している地域だ。日本で初めて「教養」という言葉が使われたのも、ここ掛川だという。そんな掛川に、地域の文化拠点となるような独立系書店がある。
今回訪れたのは、掛川駅から5分ほどの大通り沿いにある〈高久書店〉。近くには高校や小学校もある場所で、大人から子どもまで多くの地域住民が利用する“街の本屋さん”だ。約10坪にも満たない小さな書店でありながら総合書店をうたい、新刊書籍から雑誌、コミック、参考書、児童書まで幅広いジャンルで利用者のニーズに応えている。そんな〈高久書店〉は、書店のない地域に本をお届けする「走る本屋さん」から始まった。店主の高木さんは、東京の大学を卒業後に地元・西伊豆で中学校講師として2年間勤務。さらに静岡県内のチェーン書店で店長やエリアマネージャー職の経験も積みながら、21年間書店員として働いたのち、2020年に〈高久書店〉を開いた。「走る本屋さん」の活動を始めたのは書店員時代。全国的に書店が減っているなか、無書店地域の子どもたちへ自然に本と出合える場を提供したいと考えたのが活動のきっかけだ。
 
「僕が書店のない地域を訪ねると、子どもたちは買い方がわからないので本に触ることさえ躊躇するんです。『見るだけでも大丈夫だから手に取ってみて』と声をかけると、やっと本に手を伸ばします。こういった地域格差をなくしたいという思いがあり、移動本屋を始めました。今でも月に1〜2回ほどの頻度で活動を続けています」
移動本屋に加え、書店に足を運べない高齢者や体の不自由な方に向けた本や雑誌の配達もオープン当初から続けている。利用者が事前に購入した図書カードを高木さんが預かり、配達前に精算するプリペイド方式で運営しているのが特徴。今やほとんど見かけない書店による本の配達も、高木さんのユニークな発想で実現している。
 
「四半世紀以上お世話になっている本や書店に恩返ししたい」と想いを語る高木さん。さまざまなカタチで本の魅力が多くの人に届けられている。

 

地域住民のコミュニティの場としても機能する〈高久書店〉

〈高久書店〉は、高木さんが子ども時代を過ごした昭和の本屋が原点。そのため、あえて立ち読みを許容するスタイルを貫いており、気軽に子どもが本に触れ合える環境を作っている。2021年6月からは地元の企業とともに、中高生に本を無料でプレゼントする「ペイフォワード文庫」というオリジナルフェアをスタート。毎月、大人1人が代表となり、中高生におすすめしたい本を10冊購入し、〈高久書店〉の専用コーナーに設置。子どもたちは先着順で好きな本を1人1冊受け取ることができる。高木さんが〈高久書店〉で掲げるコンセプトは「子どもが大人になり、たとえ掛川を離れていたとしても、戻ってきたときに気軽に立ち寄れるような“回遊できる場”」。2階には無料で利用できる自習室(読書部屋)があり、小学生から受験勉強で利用したい高校生まで、さまざまな子どもたちが訪れる。本を売る場にとどまらず、人生の節目ごとに関わりを持てるコミュニティの拠点になっているのだ。
秘密基地のような雰囲気の2階スペース。
秘密基地のような雰囲気の2階スペース。
「ここを利用してた子が『大学に合格したよ』と報告に来てくれたときは、とてもうれしかったですね。なかには、ここが第二の家だと言ってくれる子もいます。

約6年続けてきて、特によかったと感じたのは、うちをきっかけに本屋をやりたいという若者が現れたこと。全員で10人くらいいます。書店を立ち上げたときはこうした小さな本屋を自分であちこちに作りたいと思いながらも、コロナ禍で方向性を変えざるを得なかったのですが、結果的にその輪が広がりつつあることを大変うれしく思っています」2階のスペースは自習室(読書部屋)以外にもギャラリーとしても利用できる。地域住民の表現の場として活用されているのだとか。

地域住民の表現活動を盛り上げる取り組みはほかにもある。半年に一度発行される「文芸高久書店」という文芸誌は、掛川市民らを中心に高校生から80代の方まで幅広い方が、小説や随筆、詩、短歌などさまざまなジャンルで作品を発表している。さらに、コロナ禍に始まった俳句大賞は、今や「掛川ほんわか俳句大賞」として地域を盛り上げる一大イベントへと発展した。〈高久書店〉を中心に地域住民の表現活動の場が広がっているのだ。
〈高久書店〉は、もはや掛川の地域になくてはならないものになっており、精力的に活動を続ける高木さんの姿は多くの人に影響を与えている。本を通じたさまざまな活動で地域を盛り上げる高木さんに会いに〈高久書店〉を訪れたら、掛川らしい街のおもしろさがより見えてくるに違いない。

最後に、高木さんが旅におすすめの本として紹介してくれたのは、『みをつくし料理帖』や『あきない世傳 金と銀』などの有名作で知られる髙田郁(たかだ・かおる)さんの『ふるさと銀河線 軌道春秋』。「時代小説作家として有名ですが、こちらは唯一の現代小説です。“人生の旅”にまつわる短編が9作品収録されています。老若男女9人の主人公がそれぞれ生きづらさや悩みを抱えながらも、幸福に向かって自分らしい生き方を模索していく物語で、読み終わったあとには暗いトンネルから抜け出したような希望が感じられる、じんわりと心が温まる本です。各編50ページ弱の物語なので読みやすく、書店員時代から幅広い方におすすめしています」


Text:Ayumi Otaki
Photo:Shinya Tsukioka



いつもと違う静岡県観光には、掛川市の〈走る本屋さん 高久書店〉がおすすめ。

走る本屋さん 高久書店


所在地静岡県掛川市掛川642-1
アクセスJR「掛川駅」から徒歩約5分
電話番号0537-29-6120
Instagram@books.takaku
X(旧Twitter)@books_takaku
営業時間10:00〜19:00
休業日日曜

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